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無借金経営を目指すべきなのか?
無借金のメリットとデメリットについて

はじめに
資金繰りに悩む中小企業にとって、「借金は怖い」「できるだけ借入は避けたい」と考える方は少なくありません。特に近年は、大企業の不祥事や経営難といったニュースに触れる機会も多く、「無借金経営」という言葉がクローズアップされることもあります。しかし、本当に無借金がベストなのでしょうか?今回は、無借金経営のメリット・デメリットを整理し、中小企業がどう判断すべきかを解説します。
1. 無借金経営とは?
まず、「無借金経営」とは文字通り「借入金ゼロ」の状態で企業を運営していくことを指します。銀行や信用金庫などからの融資を受けず、自社の手元資金(自己資本や利益の蓄積など)のみで経営することです。大企業の中にも無借金経営を続けている企業は実在しますが、中小企業にとっては資金不足が大きなリスクとなるため、実行が難しいケースも多いといえます。
2. 無借金経営のメリット
2-1 財務リスクの低減
借入金がないということは、返済義務と利息負担から解放されることを意味します。月々のキャッシュアウトが減り、固定費の圧迫も軽減されるため、万が一の経営不調時にも「返済に追われて身動きが取れない」というリスクを回避しやすくなります。
2-2 経営の独立性を保ちやすい
金融機関から融資を受ける際は、事業計画書の提出や融資実行後のモニタリングなど外部からのチェックが入ります。無借金経営であれば、基本的には独自の裁量で事業展開ができ、経営判断もスピーディーに行いやすくなります。
2-3 信用力の向上
「財務体質が健全である」という印象を与える点も無借金経営の大きなメリットです。取引先や仕入先とのやり取りにおいて、「資金繰りが安定している会社」と見られることで、優位な条件を引き出しやすい可能性があります。また、社内向けにも、堅実な経営姿勢として評価されることが多いでしょう。
3. 無借金経営のデメリット
3-1 成長機会を逃すリスク
借入金なしで経営を回すには、常に手元資金を潤沢に確保しておく必要があります。しかし、急に成長機会が訪れたとき、借入を活用できない(しない)となると、せっかくの大きなビジネスチャンスを逃してしまうかもしれません。特に中小企業が事業拡大を目指す際には、設備投資や新規事業への資金投入が求められるケースが多く、無借金経営では機会損失を生むリスクが高まります。
3-2 返済実績・信用の積み上げが難しい
金融機関からの借入実績がないと、その企業の返済能力や信用力に関する「実績」が積み上がりません。いざ大規模な融資が必要になったとき、金融機関からスムーズに融資を受けられない可能性があります。これも一種の「信用ゼロ」の状態であり、かえって財務戦略の幅を狭めてしまう結果になることもあるのです。
3-3 運転資金不足のリスク
無借金経営で常に利益が出続けるとは限りません。一時的な赤字や仕入先への支払のタイミングが重なった場合など、手元資金がショートしてしまう可能性があります。運転資金が足りなくなると、給与の支払が滞るなど、深刻な経営ダメージを負う恐れもあります。
4. 無借金経営と有利子負債のバランス
「できれば借金を避けたいが、将来的に事業拡大もしたい」――このようなジレンマを抱える経営者の方は多いでしょう。以下のようなポイントを踏まえて、無借金と負債活用のバランスを探ることが大切です。
4-1 借入金の目的を明確にする
借入をする際、「なぜこの資金が必要か?」「どのように使い、いつまでに回収するか?」を明確に示すことで、ただ漫然とお金を借りる状況を防ぎます。特に、設備投資や新規事業に踏み出すときは、事業計画書や収支予測を作り、「投資に対してどれだけ利益を生み出せるか」の計算をしっかり行う必要があります。
4-2 借りすぎない・返せる範囲で借りる
無借金経営を理想としながらも、必要なタイミングで必要な額だけ借入をする、という経営手法もあります。余計な借入を避け、返済計画を組んだ上で利用することで、過度なリスクを抱えずに資金を調達できます。重要なのは、自社のキャッシュフロー状況や利益率を考慮し、「返済に耐えられるか」を見極めることです。
4-3 適度な負債は「レバレッジ効果」を生む
借入金を有効活用すれば、自己資本のみで運営する場合よりもスピード感を持って事業を拡大できるかもしれません。これは「レバレッジ効果」と呼ばれ、上手く作用すれば企業価値の向上や売上増大を狙えます。しかし、投資が失敗すると借入金返済の重荷が経営を圧迫するため、慎重な見極めが必要になります。
5. 中小企業が取るべきアプローチ
無借金経営が必ずしも悪いわけではありませんが、すべての中小企業にとって最適な手段でもないのが現実です。以下のステップを踏んで、借入の活用を含めた最適な資金戦略を検討しましょう。
5-1 自社の財務状況を正確に把握
毎月の売上、経費、利益を正確に把握したうえで、どの程度のキャッシュフローが確保できているのかを知ることが必要です。
5-2 成長フェーズの見極め
拡大路線にあるのか、安定維持が主目的なのかによって、資金ニーズは大きく変わってきます。いま大きく投資する必要があるタイミングなら、借入による資金調達も検討の価値があります。
5-3 金融機関との関係構築
無借金のままでも、いざというときに備えて銀行口座の取引実績などを段階的に積んでおくと、将来的に融資が必要になった際に有利に働く可能性があります。
5-4 リスク管理と資金調達のバランス
借入金を増やしすぎると財務リスクが高まる一方、無借金経営に固執すると成長機会を逃す可能性があります。適度な自己資本を維持しつつ、リスクを分散させるために、必要な範囲での借入を活用することが重要です。これにより、企業の財務体質を強化しながら、成長のための資金を確保できます。
まとめ
無借金経営の利点は、返済リスクがなく、経営の安定を図りやすいことにあります。一方で、事業拡大や突発的な資金需要に対応できず、チャンスを逃してしまうデメリットも無視できません。

・無借金経営のメリット
安定性や独立性を保ちやすい、返済負担を軽減できる、など。

・無借金経営のデメリット
成長機会を逃す、返済実績の欠如による信用構築の難しさ、運転資金不足のリスク、など。

中小企業が継続的に成長していくには、状況に応じた柔軟な資金調達と健全な財務体質の維持が欠かせません。「借金は悪」という考え方に固執するのではなく、必要なときに賢く借り、適切なリターンを得る方策を検討しましょう。
また、金融機関との良好な関係を築き、いざというときの融資スキームを確立しておくことも重要です。定期的に資金ニーズを見直すことで、無理のない範囲で借入を行い、企業価値を高めるレバレッジを上手に活用するのが、中小企業にとっては現実的な経営戦略と言えます。

無借金経営か、適度な借入での経営か――答えは一つではありません。自社の経営状況や成長ステージを客観的に分析し、最良の方法を選び取ることが、持続的な発展と安定につながるはずです。

制作日:2025年3月

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